ひとりっ子

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

イーガンの短編集。いろんな人が言っているように,イーガンはアイデンティティをテーマにした傑作短編が多い。今回も手を変え品を変えて攻めてきます。しか人間恐ろしいことに『またイーガンのアイデンティティものか…』とか,妙な慣れが出てきてしまうのですね。贅沢病とでもいいましょうか。そんなわけで今回はむしろ『ルミナス』のような数学SFの方が素直に楽しめました。表題作の『ひとりっ子』は,「人生で最高の選択をするたびに"量子論的な他の自分"は悪い選択を迫られているのではないか。自分の他の自分を不幸に追いやっているのではないか」と悩む科学者が主人公。この科学者が量子論的な不確定性を持たないハード上に構築されたAI人格を持つ「ひとりっ子」を作り上げ養子にするお話。自我を突き詰めすぎて暴走したやつの話としか読めない。